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C2C時代のブランディングデザイン
「いきなり!ステーキ」、驚きの連続を”デザイン”する(解説編)

2018年10月09日

新たな視点でブランディングデザインに切り込み、先進企業に取材する連載「C2C時代のブランディングデザイン」。今回はペッパーフードサービスが手掛ける「いきなり!ステーキ」のブランディング手法について、独自の視点で分析した解説編です。

「いきなり!ステーキ」は店舗の内外が同じ世界観で統一されており、その中心にいるのが一瀬社長。自らブランドキャラクターになっている

本連載では、人とブランドの間に結ばれる、終わりのない絆づくりとしてのブランディングデザインについて、実際に手掛けた担当者にインタビューして分析しています。「これは面白い!」「ワクワクする!」という理由があるから、C2C時代でも拡散され、人が人を呼んでいるのです。
 前回、「いきなり!ステーキ」を手掛けるペッパーフードサービスの一瀬邦夫社長CEO(以下、一瀬社長)に、ブランドを作るということはどういうことか、なぜ「いきなり!ステーキ」ブランドをここまで顧客に浸透できたのか、をお聞きしました。そのとき、最も特徴的だと感じたのが「えっ! ここまでしていいの?」を“デザイン”し続けるという姿勢でした。

短期的な視点に立たない

まず私が注目したのが、「肉マイレージカード」です。一瀬社長の考えの源泉は、お客さまの「えっ! ここまでしていいの?」という驚きや感動がブランドの原動力になるというものがベースになっています。
 肉マイレージであれば、ランクアップ特典や肉がプレゼントされるバースデー特典、毎回来店時にドリンク無料など、常にお客さまの感情を刺激しています。アプリ上で自分のランキングが分かることも刺激の一つです。一瀬社長が言うには、お客さまが来店し続けるづける仕組みがあれば、原価率が高くても売り上げに対する固定費が下がり、ブランドは成長できるそうです。

肉マイレージカードのアイデアは、一瀬社長が出張時に乗る、航空会社のマイレージサービスがヒントでした。ご自身が航空会社に対して愛着を感じていた経験を生かしたものだと言います。そのように体感したアイデアだからこそ、飛行距離ではなく、お客さまが食べたグラムに応用できないかと自然に生まれたものだったのです。
 短期的な売り上げ視点に立ったものではなく、中長期的にお客さまが来店し続ける仕組みに集中させたアイデアでした。だからこそ、サービス券や割引券でもなかったと言えます。結果的に“食べた肉の量を競う”“誰かにランキングを言いたくなる“という人間の動物的な本能を駆り立てるような、ユニークなマイレージシステムになったのです。

アプリの画面を見ると、食べた量からランキングを示すため、ユーザー同士の闘争心がかき立てられそうだ

「いきなり!ステーキ」におけるブランディングデザインの意味と手段。意味としては、体験デザインやコミュニティデザインに要素によるものが多い。現在、手段としてはデジタルデザインをより強化している

「いきなり!ステーキ」のロゴ。ネーミングとロゴの勢いを感じることができる

店内には、挑発するようなガツガツ感を演出。「パワー」「タップリ」「肉」などの言葉が「肉々しさ」を醸し出し、お客の高揚感を高めている

店頭にある「いきなり!ステーキ」の流儀を伝えるツール。おいしさを感じるシズル感のあるコピー

社長自身がブランドキャラクターに

次に注目したのは、店内のポスターやロゴ、キャッチコピーなど、店頭にあるユニークな「いきなり!ステーキ」調のプロモーションツールです。しかもコック帽をかぶった一瀬社長がブランドキャラクターとして登場しています。ブランドの人格(ブランドパーソナリティー)が見えることは、食品分野では特に安心感や専門性につながります。
 元気で力強い書体や肉汁を感じるジューシーな深い赤も「さあ、肉を食べるぞ!」という気分にさせる演出を感じさせます。おなじみのスタンディングでステーキを食べるというスタイルも人間の本能を駆り立てます。実は、すべてのタッチポイントに「いきなり!」のトーン&マナー(一貫性を保った表現方法やルール)がコントロールされているのです。これらのすべてのプロモーションツールの監修は一瀬社長で、どんなに忙しい中でもすべてのアイテムに目を通すそうです。
 「炭焼きステーキは厚切りレアーで召し上がれ」というキャッチコピーも一瀬社長が考案しました。一瀬社長自身が食べたいと思っているステーキのおいしさを的確に象徴している表現です。そのほかに「ハラペコ」「分厚い」などの肉をガッツリ食べたいと思う気持ちを刺激するような単語が店頭で連呼されています。
 一瀬社長の「ハッタリはすぐお客さまにバレてしまう」という言葉は印象的でした。確かに冗長なコピーやデザインでハッタリを持ち込まない姿勢がうかがえます。「世界一」などのような自画自賛するような自慢に満ちたコピー表現は一切ありません。これは一瀬社長が言う、お客さまを裏切ることなく、来店し続けて頂く仕組みそのものです。実は、その表現の微妙なさじ加減が「いきなり!ステーキ」のおいしさや誠実さにつながっているのです。

店頭のポスターにも同じ写真が活用され、一瀬社長がコック帽姿でお客さまを出迎えるイメージを打ち出している

カルビーとのコラボ商品にも一瀬社長がブランドキャラクターとして登場

セガゲームスのゲームソフト「龍が如く6 命の詩。」と「いきなり!ステーキ」によるコラボレーションキャンペーンでは、主人公の桐生一馬と一瀬社長が並んだポスターも

試行錯誤を楽しんでいる

3つ目のポイントは、試行錯誤を楽しむ柔軟性です。肉マイレージカードも最初からすべてが完成していたわけではありません。人が食べたグラム数を競い合うことも、自分が食べたグラム数を見られることも、システムを進めながら改善してきたことだったようです。
 同様に米国出店も、おいしさを担保しながら、サービスの遅さや家格の改善などを、オープン後の数日で臨機応変に修正していきます。実際、周囲の状況を勘案しながら、ステーキやスープ、サラダの料金を10ドルくらいに変更し、勝負を挑みました。すぐに戦略を変更し、お客さまの「えっ! ここまでしていいの?」を実現しています。お客さまだったらどう見てくれるか、どんなサービスが喜ばれるか、どんな店に行きたいかをひたすら考え、問題があれば一瀬社長が率先してアイデアを出し、それらをスタッフが実現していくというスピード感が、急成長でブランド確立ができている大きな要因です。
 新たにステーキのデリバリーサービスも、2店限定で2018年6月からサービスを開始しました。走りながら改善していく柔軟性で、今までどこも実現できなかったステーキをデリバリーするという当たり前を、スピード感のある修正で“デザイン”してしまうことでしょう。実際、一瀬社長が言う「やってみなければ分からない」という言葉は、ご自身が新しいことにチャレンジする自分に向けて常に言っている言葉だといいます。ビジネスとしてこのようなスピード感が求められれば、手段である“デザイン”にも柔軟性が求められるのは当然です。

未完成だからこそ、お客を呼ぶ

「いきなり!ステーキ」のブランド戦略は、決して起爆剤になるような奇策を考えているようには感じません。むしろ、基本に忠実にリピート率を向上させるために、どうしたらお客さまが来店し続けてくれるのかを考えています。「いつもお客さまの目線で見るということ」「誰より自分が行きたいお店はどんな場所か」といった、一瀬社長が日々のメモの中で描いた理想郷を、着実に現実化させていることが躍進の理由です。
 お客さまの「えっ! ここまでしていいの?」という感動を作るために、すべてをスタッフに任せてしまうのではなく、一瀬社長自らがアイデアを創造し続けているところに原点がありました。肉マイレージカードも米国進出も、最初から完全形を提供するのではなく、未完成な部分をさらけ出して、それらをより良いものにして、完成形へと近づけようとする努力そのものが、顧客から見れば愛着が湧き、来店したくなる要素の一つになるのかもしれません。
 「いきなり!ステーキ」は、完成形に向けて試行錯誤を楽しんでいると言えます。最近では、18年7月に発表した日本航空とのマイル交換、さらにカルビーや山芳製菓とのコンビニ用のコラボ商品、「自衛隊ベストボディ」コンテストへのサポートなど、「いきなり!ステーキ」ブランドによる、ユニークなタッチポイント作りの勢いはとどまることを知りません。18年内に200店の新規出店を目指すように、矢継ぎ早に実行に移すスピード感と斬新なアイデアが、顧客の参加したくなる衝動を駆り立てます。このユニークなドラマ性が、お客さまがお客さまを呼び、ブランドへの愛着を生み出していくことでしょう。斬新かつ飽きさせないアイデアの連続が、顧客と顧客がつながるC2C時代のブランディングデザインには必要だと言えるケースです。

日本航空とのマイル提携を始めた。徹底的に他社とコラボする姿勢がすごい。航空会社のマイル制度から、一瀬社長は「肉マイレージ」のアイデアを考えた

18年7月に開催した「肉友クラブパーティー」では、自衛隊員による筋肉自慢のイベントもあった。肉=筋肉づくりを「いきなり!ステーキ」がサポートするというイメージにつなげる

(日経クロストレンド2018年8月16日掲載の内容を転載しています。)


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