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C2C時代のブランディングデザイン
コンサドーレ札幌が挑む チーム強化につなげるクリエイティブ力(解説編後編)

2021年05月20日

ブランディングプランナーの細谷正人氏が新たな視点でブランディングデザインに切り込み、先進企業に取材する連載「C2C時代のブランディングデザイン」。前回に引き続き、北海道コンサドーレ札幌を取り上げます。今回は解説編の後編。

北海道コンサドーレ札幌の試合風景。クラブチームだけでなく、地域のブランディングとして考えている (写真提供/北海道コンサドーレ札幌、©2019 CONSADOLE)

 前回は欧州プロサッカーのクラブチームについてブランディングデザインの視点で考察しました。日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)でも、近年は英国出身のネヴィル・ブロディ氏が東京ヴェルディのエンブレムデザインを手掛けるなど、一流のデザイナーがブランディングの一部を担うケースは出てきています。しかし、相澤陽介さんのような世界的なファッションデザイナーが北海道コンサドーレ札幌(以下コンサドーレ)のクリエイティブディレクターとしてクラブチームのデザイン全般まで手掛けるのは異例です。

 相澤さんへのインタビューで私が驚いたことは、相澤さんが得意とするファッションブランドとは違う視点で、クラブチームのブランドを考えていたことでした。それは「戦力を強化するためのクリエイティブとは何か?」という視点です。まずはJリーグのビジネスを見てみましょう。

 クラブチームの営業収入(売り上げ)には、3本柱として「入場料」「物販」「広告料」があり、この他にJリーグ全体の「放映権」があるといわれています。入場料、物販、広告料は密接につながっており、観客数の数に比例して入場料やグッズ収入が増え、広告料を払うスポンサーが多く集まるといった好循環が生まれます。放映権についてはクラブチームの経営努力だけではなく、Jリーグ全体のブランド向上が不可欠です。

 2018年度の各リーグ(J1やJ2、J3)合計の営業収入は約1257億円(Jリーグの公式サイトより)で、17年度比での成長率は約113.7%になっています。中でもヴィッセル神戸はJリーグ史上最高の営業収入で、96億6600万円を計上しています。J1平均では約47億5500万円ですが、コンサドーレは約30億円でした。そうした状況の中、デザインの力でクラブチームの強化に貢献することが、コンサドーレのクリエイティブディレクターとして相澤さんが目指す方向です。ブランド向上につながるクリエイティブ資産へ投資し、感性価値への刺激を与えることでファンの愛着を育むのです。

ブランド力を高めてファンの愛着を育む。観客数が増えればグッズなどの売り上げも伸び、クラブチームの強化に貢献するという好循環につながる(写真提供/北海道コンサドーレ札幌、©2019 CONSADOLE)

日本らしいサッカークラブチームのブランドづくりへ

 相澤さんによると、国内のクラブチームは欧州とは異なり、ユニフォームやタオルなどのグッズやポスター、チケットなどまで独自にデザインをすることは、マンパワー的にも資金的にも難しかったそうです。しかしブランド力を高めれば、観客数が増えてグッズなどの売り上げも伸ばすことができます。そうなるとクラブチームの営業収入が増え、活躍が期待できる選手をさらに獲得でき、もっと強くなることで営業収入が増えていく。こういったクラブチームの強化につながる構造を相澤さんは明確にイメージして、クリエイティブ戦略を考えています。

 ただし単なるグッズやポスター、チケットだけがデザインの範囲ではないようです。インタビューでも、イングランドのニューカッスルを本拠地とするニューカッスルユナイテッドFCのセントジェームズパークというスタジアムと、その周辺のお話について熱く語っていました。ニューカッスルは住民が数万人の小さな街ながら、サッカーの試合がある日は街中やパブがサッカー一色で埋め尽くされ、クラブチームのデザインでいっぱいになるそうです。

 こうなると、クラブチームだけのデザインだけではありません。地域や住民までもが一体となったニューカッスルという「地域ブランド」をどうつくるかが課題なのです。そのため今後は、スポンサーなどクラブチームを取り巻くさまざまな企業との連携を深め、統一感を持たせるようなデザインが必要になるといいます。「札幌もニューカッスルのようになったらいい」と相澤さんは話していました。クラブチームのブランディングは、顧客やサポーター(Consumer)に加え、地域のコミュニティー(Community)まで含めた「C2C+C」のブランディングデザインが求められるのでしょう。

 新型コロナウイルスでライブ活動ができない音楽アーティストやオーケストラ、オペラの主催者などが無料でコンテンツを動画配信しているように、ファンとのつながりがより一層必要になる時代に突入しています。有名選手の獲得や親会社からの多額の広告収入も重要かもしれませんが、健全な経営を目指すには地域社会はもちろん、ファンを大切にして入場料、物販、広告料の収入を上げていくことが、良いバランスになるはずです。

 4月24日現在の状況から考えると、今後しばらくJリーグは無観客試合を行い、サポーターたちは家でコンサドーレの試合を応援することになるかもしれません。そのときコンサドーレのオフィシャルグッズを着たり、手に持ったりしながら家族と共に応援できれば、クラブチームのブランド戦略は一歩、成功に近づきます。そうした動きを各チームが積み重ねていくことで、Jリーグ全体の事業規模が向上していくでしょう。

 無類のサッカー好きの相澤さんは、欧州リーグに負けないような、Jリーグ全体のブランド強化も見据えていると思います。クラブチームと地域社会の関係性はもちろん、ファン同士の関係性まで含めて、これまで以上に高度なクリエイティブ戦略を考えているはずです。相澤さんやコンサドーレの挑戦は壮大で、まだ始まったばかりです。

(日経クロストレンド2020年5月8日掲載の内容を転載しています。)


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