BANNISTAR FIND NEW PARADIGM IN YOU.

BANNISTAR FIND NEW PARADIGM IN YOU.

BLOG

C2C時代のブランディングデザイン
JINSの田中CEO ビジョンをデザインできる企業が生き残る(インタビュー編)

2020年02月07日

ブランディングプランナーの細谷正人氏が新たな視点でブランディングデザインに斬り込み、先進企業に取材する連載「C2C時代のブランディングデザイン」。これから2回にわたってJINS(ジンズ)を取り上げます。今回は田中仁CEO(最高経営責任者)へのインタビュー編。

JINS(ジンズ)の田中仁CEO (写真/丸毛 透)

田中 仁(たなか・ひとし)氏

代表取締役CEO
1988年7月に有限会社ジェイアイエヌを設立。2001年アイウエア事業「JINS」(ジンズ)を開始。17年4月ジンズへ社名変更

細谷:JINS(ジンズ)は、眼鏡を低価格にすることで、気分やファッションに合わせて換えることや、ブルーライトから目を守る「JINS SCREEN」をはじめとする機能性アイウエアなど、眼鏡の新しい在り方を提案してきました。さらに「JINS Design Project」として著名なデザイナーと協業した商品を開発する他、センサーを組み込みアプリと連動させることで日々の活動を計測できるようにした「JINS MEME」(ジンズ・ミーム)と呼ぶウエアラブルデバイスや、世界一集中できる場を目指した会員制ワークスペース「Think Lab」(シンク・ラボ)も手掛けています。今までにない試みを次々と打ち出す狙いはどこにあるのでしょうか。

田中:当社では「Magnify Life」(magnifyは拡大するという意味)というビジョンを掲げています。商品を通じてすべての人がより豊かで、より広がりのある人生を送れるように、日々の企業活動に尽力しています。デザインに注力しているのも、そのためです。今までよりも良い世界をつくるにはどうすべきか、いかに当社のビジョンを具現化したらいいかを考えたとき、デザインの役割がすごく重要になると思うのです。デザインって単に商品の外観を良くするということ以上に、深くて大きい存在だと感じています。

例えば眼鏡のフレームだけでも1ミリ単位でデザインが変わります。JINS Design Projectで協業したジャスパー・モリソンさん、コンスタンティン・グルチッチさん、ミケーレ・デ・ルッキさんなど世界の一流デザイナーたちのデザインは本当にクオリティーが高い。なぜなら人間の本質をしっかり捉えているからなのでしょう。ただ「かっこいいデザイン」をするということではなく、眼鏡の成り立ちという源流まで遡り、そこに意味を見いだしています。単純にプロダクトの形ではなく、人間の暮らし方までもデザインすることにつながっているのでしょうね。

細谷:デザイナーたちが人間の本質を捉えて、眼鏡の意味性からミリ単位の製品細部まで、“見る”ことの価値を高めようとしています。まさに眼鏡を通じて、お客さまの“生活を拡大する”ということですね。

田中:当社は今、いろいろな方向に広がっています。まだ、ばらばらのように見えるかもしれませんが、それらを全部つなぎ合わせた世界をつくりたいと思っています。JINS MEMEは先端テクノロジーの塊ですし、「バイオレット+(プラス)」という紫外線を選択透過するレンズも提供しています。医療機関との協業、さらには次世代店舗の在り方など、いろいろなことを考えています。

皆さんからは、一見つながりがないように思えるかもしれませんが、すべてがMagnify Lifeにつながっているのです。最終的にはジンズのサービスとしてつながり、お客さまによりよい体験をもたらすことになる。そうなったときにジンズは初めて、今までのような単なる眼鏡チェーンではなく、オリジナリティーのある唯一無二のブランドになるのではと思っています。商品の開発だけではなく、サービスや体験の提供もありますし、ビッグデータの活用にも注力しています。それらを次第に一体化することで新しい事業展開ができると考えています。

「JINS Design Project)では、ジャスパー・モリソンやコンスタンティン・グルチッチの他、18年11月には建築家のミケーレ・デ・ルッキと協業した眼鏡を発売した(上はイメージ画像で下は商品写真)

ブランドは歴史に裏打ちされる。100年後を見据えれば焦る必要はない

細谷:例えばどんな事業ですか。

田中:これは、あくまで一例ですが、私が面白いと思った企業が海外にありました。保険会社ですが、そこはオンラインによる顧客サービスと、多くの外交員による、いわばオフラインによる顧客サービスを連動させることで、業績を上げているそうです。お客さま一人ひとりのニーズをうまく捉えている。カスタマーロイヤルティーがどんどん高まっているので、マスメディア広告は必要ないとか。多くの日本企業は効率化を狙って社員を削減する方向に動いていると思いますが、その保険関連の会社は新しいサービスを作りつつ、人も増やしているらしい。これなどは、1つの参考になる事例ではないでしょうか。

細谷:やはり人が軸になるのでしょうね。アイウエアによって“見る”ことはもちろん、“見る”ことに伴う“ヒト”の感情変容、行動変容など無形なことも含めて、全部がブランディングとしてつながっていくということなのですね。

田中:だからこそ、我々はあらゆるお客さまの情報をキャッチして、新しいサービスも生み出していきたいと考えています。将来的には、お医者さんとの連携があるかもしれません。そういったことを常に想像しています(笑)。

例えばJINS MEMEは、集中度合いの計測はもちろん、お客さまの感情や興味まで計測できる可能性が見えてきています。今後はお客さまに最適な音楽をリコメンドするセンサーになるかもしれません。首を振ったり視線を動かしたりすることでパソコンのマウスのような役割にも使えるので、障害のある方にも役立つでしょう。まばたきがクリックになるのです。これは、ものすごいことではないでしょうか。もちろんJINS MEMEだけでサービスが完結するのではなく、店舗やスタッフとどうシナジーを出すかが大事です。先に話した海外の保険会社のように、これからは店舗やスタッフの役割が変わるかもしれません。

ウエアラブルデバイス「JINS MEME」(ジンズ・ミーム)は、3点式眼電位センサーや6軸センサー(加速度センサー/ジャイロセンサー)で、利用者の心と身体の変化を捉える

集中を科学した会員制ワークスペースとして本社オフィスのある東京・飯田橋に設立した「Think Lab」(シンク・ラボ)

細谷:これからお客さま同士がさらにつながり、社会におけるコミュニティーによってブランドが確立していく時代です。これからの御社のブランディングについて、どうお考えですか。

田中:企業の本当の思いを真摯に伝えることしかないと思うのです。単にテレビなどで広告したからといって、そのままブランディングにつながる時代ではありません。お客さまは、本質を見抜く力を持っている。だから、ビジョンをきちんと持っている企業と、そうではない企業の差がはっきりする時代じゃないかなと思います。ビジョンをお客さまにお伝えするとき、何を通じてお伝えするかとなると、やはり店舗のスタッフや商品しかありません。そこが当社とお客さまとの大事な接点になるからです。

細谷:例えば、スタッフの行動というのはなかなかデザインしにくいと思いますが、どういうことを重視されていますか。

田中:スタッフが自分たちの働く企業を好きにならなければ、お客さまだって好きになるはずがありません。お客さまに「我々は誠実です」と言うだけでは、駄目だと思っています。接客から商品まで、1つひとつの積み重ねしかないのです。直接、目に見えなくても、誠実さや正直さの積み重ねが、結果として長い時間を掛けて差となって表れてくる。即効性を狙ってCMをどんどん打つだけでは意味はありません。ブランドは歴史に裏打ちされていますから。例えばフランスのエルメスだってスイスのロレックスだって、今までの歴史があるからこそ強いブランドになったのです。

私は創業者ですが、自分の時代だけで進めようとするから、焦ってしまう。しかし100年後を見据えるとなると、焦る必要はないのです。だからこそ、余計にビジョンが重要になると感じています。ビジョンが無いと、人も動けないし、商品の方向性も分からない。いいデザインはたくさんあると思いますが、当社のビジョンと一致しているかどうかが重要です。ビジョンと方向性が異なれば、当社にとっては悪いデザインになります。他社のことは分かりませんが、ビジョンそのものがある企業が、日本には少ないという気はします。価格が安いとか早くお渡しするとか、そうしたことも含めて全部に、我々の思いが詰まっています。その思いをどう伝えていくかが重要になるのです。

インタビュアーのバニスター代表取締役の細谷正人氏(写真/丸毛 透)

細谷:現状の企業努力がすべてお客さまに伝わっていないことも課題ですね。ビジョンを可視化して、お客さまの実感として伝えていくには、時間が掛かるのでしょうね。

田中:掛かると思います。当社のオフィスは「第28回 日経ニューオフィス賞」で最高峰の「経済産業大臣賞」を受賞しました。フリーアドレスなどクリエイティブな環境づくりといったオフィス単体での設計ではなく、ビジョンを体現することを目的としてデザインしたからです。空間デザインというより、「ビジョンとの整合性」がポイントだったのでしょう。ビジョンを支える姿勢として、当社が求める人物像と資質を「Progressive」(先進的な)、「Inspiring」(インスパイアする)、「Honest」(誠実な)としていますが、私は企業活動すべてに、これらのビジョンや姿勢を反映させたいと考えています。

細谷:なるほど。日本企業では珍しく、ビジョンが社内のあらゆるところに浸透しているようですね。今日はありがとうございました。

(写真/丸毛 透)

(商品やThink Labの写真提供/JINS)

(日経クロストレンド2019年03月15日掲載の内容を転載しています。)


Recently