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C2C時代のブランディングデザイン
生活者の感情に響かせ、行動変容させるブランドづくりのポイント

2021年05月30日

バニスター代表の細谷正人が新たな視点でブランディングデザインに斬り込み、先進企業に取材する連載「C2C時代のブランディングデザイン」。番外編として連載に大幅に加筆して発刊した書籍『ブランドストーリーは原風景からつくる』の内容を一部抜粋して紹介する。3回目は、ブランドの愛着につながる好意と信頼を得る可能性を高める「ヒューマンスケール」について解説する。

自宅のキッチンにある「Amazon Echo Dot」。人間性を感じられるデジタル機器かもしれない(筆者撮影)

 ブランドへの愛着を形成するためには、生活者とブランドの間に強い感情的な絆がつくられていることが必要だ。好意と信頼は極めて重要である。しかし、そのブランドが好きであるという好意を抱かせ、信頼を築き上げるためには、ある一定のブランドとしての素地が備わっていないといけない。ブランドへの愛着を得るためには自己にとって精神的に近い関係性を保ちながら、自分がそのブランドの何かから保護されているという安心感が必要である。

 それは誠実な嘘のない、まっとうなブランドとしての姿ではないか。その揺るぎない人格を保持し、要望に応え、観客の様子を見ながら無意識的に心理的距離感を縮め、ブランドエクイティ(ブランドが持つ資産価値)が形成されていくのではないか。このような考え方を本書ではブランドにおける“ヒューマンスケール”と呼びたい。ヒューマンスケールは本来、建築で使われる用語である。その定義は文字通り人間的な尺度のことで、建築や外部空間など人間が活動するのにふさわしい空間のスケールのことを意味する。

 さらに自社の製品やサービスブランドを生活者に想起させるためには、ブランドイメージは不可欠。中でもブランドパーソナリティーは重要であると考える。ブランドパーソナリティーの定義は「ある所定のブランドから連想される人間的特性の集合」としたい。つまり、そのブランドを人格や生き方で例えるとどのような人で、その人格の振る舞いはどのような言動、身なりなのかを考えることである。

 ブランドエクイティを消費者に伝達するために、すべての接点でブランドパーソナリティーを通してブランドエクイティを提供する必要がある。例えばマクドナルドやディズニーランドであれば、カウンターでスマイルを0円で売ることも、キャスト(スタッフ)がパーク内で子供の目線までしゃがみ込んで対話しているのも、すべてのキャストがブランドパーソナリティーを理解した上で、行動や振る舞いを変容させて、ブランドとしての提供価値を顧客に履行している証拠である。

 人間的特性の集合であるブランドパーソナリティーは、最も重要な役割であることは間違いない。さらに、ブランドパーソナリティーを遂行し、その結果、人間的振る舞いによる活動に変換された情緒的なベネフィットの集合要素であるヒューマンスケールに注目する必要がある。このようなブランド活動が、ブランド愛着につながる好意と信頼を得る可能性を高める。

人間らしい振る舞いを感じさせるデジタル化も

 ここで、その“人けのある”情緒的なベネフィットの事例を紹介したい。1つ目はAmazonによる物理的な接点をつくることによるヒューマンスケールである。ウェブやスマホだけでなく、「Amazon Echo」「Amazon Go」でリアルに体感できる複数の接点を併せ持っている。Amazonの接点づくりはブランドパーソナリティーの域を超え、そのデバイスに人間的な振る舞いを感じる機能を付加させ、習慣化されるような状態を意図的につくっている。

 私の家では朝、コーヒーをいれながらニュースやラジオを聞くためにAmazon Echoがキッチンに置かれている。毎朝、「アレクサ!」と呼びかけることから1日が始まる。まさしく居住空間に、まるで私専属のバトラーのような“Amazon”をつくり出している。この例は、生活者に習慣的な行動を繰り返させることで、Amazonへの心理的距離を縮めようとしている。

 2つ目の「北欧、暮らしの道具店」というECブランドも、良い事例の1つだ。スタッフの丁寧な暮らしを具体的に伝達することで、生活者にとって身の丈を感じるヒューマンスケールが存在している。

 「北欧、暮らしの道具店」のInstagramは110万を超えるフォロワーがおり、その他にもFacebookやYouTubeなども20万~40万の「いいね!」数や登録数を獲得している(2021年4月時点)。ダイレクト検索とSNSを主軸としたチャネル戦略で、高頻度でリピートする女性顧客を獲得している。SNSを活用し、読者との強い関係性を保っている良い事例である。ブランドミッションは「フィットする暮らし、つくろう」。オーダーメードなライフスタイルを求める顧客に対して、自分の物差しで“フィットしている”と思える暮らしづくりを目指している。

 「北欧、暮らしの道具店」は、多くの顧客から店舗と認識されており、決してECメディアと意識されないようなコミュニケーションを行っているのが特徴だ。具体的には、客観的に売るための情報発信ではなく店長やスタッフのおすすめなど、ECサイト内のスタッフが主観的かつ主体的な情報発信を実施している。商品説明やコラム、スタッフの家族写真、ムービーや新居の写真も公開しているなど、スタッフ自身の個性やリアルな考えをありのままに顧客に伝えている。まるで親友にたわいもないことを話しているかのように、嘘のないコンテンツによってスタッフたちの実生活や等身大の暮らしを垣間見ることができる。人間的な振る舞いによる活動に変換されたヒューマンスケールによって根強いリピート客が生まれている。

 広告記事でもブランドの世界観を壊さずにスタッフの実体験などを活用した編集になっており、すべてが“フィットする暮らし”を目指してスタッフ自らが実践している。ターゲットの設定も“私たち(社員やスタッフ)みたいな人”と設定しているのも非常にユニークだ。従来の年齢や収入などマーケティング的な属性で考えるのではなく、「北欧、暮らしの道具店」の価値観や世界観に共感する感性を持つ人を自分たちの顧客として設定している。社会のブランディングにつながるコミュニティーづくりに近い考え方がある。

「北欧、暮らしの道具店」のコンテンツ(画像は書籍『ブランドストーリーは原風景からつくる』に掲載された、2020年11月の出版当時の同社サイトから引用)

ブランドは嘘がつけない時代へ

 Amazonのように、ブランドパーソナリティーを超えて、物理的な接点を増やして生活者の行動変容を促す手法もあれば、「北欧、暮らしの道具店」のように、社員自らが納得し、具体的な行動で実践し、生活者に嘘のない本音を伝える手法もある。どちらも生活者の感情が揺れ動き、行動変容を促す手法である。このような活動による、好意や信頼を得るためのヒューマンスケールづくりがすでに始まっている。

 今後、ブランドエクイティを高めていくためには、ブランドパーソナリティーを定義するだけではなく、どうしたら生活者の感情に響き、深く考えてもらうことができるのか、その結果、どのような行動を変容させることができるのかを考えることが必要だ。今後デジタルを中心とした口コミやコミュニケーションが多様化すればするほど、ブランドは嘘がつけない時代へと変化する。新しいブランドづくりは難しい局面に入ってきている。

 本書では、ブランドにおけるヒューマンスケールを「人間的な振る舞いによる接点や活動を通して、真意が伝わり、心理的距離が縮まる要素」と定義したい。ブランドが時代における社会意識の変化に応じるものである以上、常にブランドエクイティを更新し、生活者と新鮮な関係を結び続ける必要がある。その成果として、ブランドと消費者との時間の中に紡がれる自伝的記憶が生まれる。その記憶は一朝一夕にできるものでもなければ、誰かによって一方的に与えられるようなものでもない。

 狭義から広義、経営そして社会までのブランディングを反復し、その大きな振動を、ブランド自身が生活者とともに試行錯誤しながら楽しむことができるかが試されているようにも思う。ブランドエクイティに事業の大小は関係ない。

 過去に、“創造性”について米アップルのスティーブ・ジョブズがこんな言葉を述べていた。「創造性とは結びつけることだ。クリエイティブな人々は多くの経験をしているか、もしくは自分の経験から多くのことを考えているからできる」。ジョブズは、自らの個人的な経験や記憶から創造し、最終的にすべてを結びつけていくべきだと伝えている。思考の原点は「自分が顧客だったらどうしたいのか」という自己中心的な尺度だ。

 一方、米IDEOの創設者であるデビッド・ケリーは「ユーザーの振る舞いを観察することによって、私たちはより良いショッピングカートをデザインする方法を学ぶ」と述べている。自らの経験から始めるのではなく、ユーザーの観察から新しい発想は生まれるという視点だ。思考の原点は「顧客の行動や気持ち」であり、ケリーはジョブズとは真逆の尺度を重視している。

 自分起点か顧客起点かという出発点は異なるにせよ、人の思考の中にある感情や経験、記憶が礎であることはどちらも尊重しており、人間の根源的な要素を見つめ直すことで、創造力を生み出すべきだと説いている点は同じだろう。

書籍『ブランドストーリーは原風景からつくる』

[本書第1章より抜粋]

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(日経クロストレンド2021年04月15日掲載の内容を転載しています。)


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