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C2C時代のブランディングデザイン
1年間で400万人来園、「銀座ソニーパークもソニーの商品だ」(インタビュー前編)

2020年02月13日

細谷正人氏が新たな視点でブランディングデザインに斬り込む連載「C2C時代のブランディングデザイン」。3回にわたり「Ginza Sony Park」を取り上げます。今回はプロジェクトを担当したソニー企業の永野大輔社長へのインタビュー前編。

(写真/丸毛 透)

永野大輔(ながの だいすけ)氏

ソニー企業社長・チーフブランディングオフィサー
1992年にソニー入社。営業、マーケティング、経営戦略、CEO(最高経営責任者)室などを経て2017年から現職。「Ginza Sony Park Project」のリーダーとして、13年からプロジェクトを推進し、18年8月9日に「Ginza Sony Park」をオープンさせた

細谷 東京・銀座の一等地にあったソニービルが2018年8月に「Ginza Sony Park」(以下ソニーパーク)としてリニューアルして約1年がたちました。約707平方メートルのフラットな地上部と地下4階の吹き抜けを含む地下部分で構成された公園は、画期的なデザインであり、ソニーにとっても挑戦的な試みだと思います。22年には公園のコンセプトは変えず、新ソニービルを竣工する予定と聞きます。なぜ公園を造ったのか、そのきっかけから教えてください。

永野 プロジェクトのスタートは13年です。もともと公園を造るという計画ではなく、ソニービルの建て替えプロジェクトとしてスタートしました。私は当時、ソニー社長直轄のスタッフとしてプロジェクトに参画し、どんなビルにしようかとメンバーで話し合っていました。次のソニービルは何階建てにするとか、どんなテナントを入れたらいいか、などと議論しました。

 しかし、同じようなビルがたくさんあり、普通のビルでは面白くない、という意見が出てきた。ならば、どこかのビルと似てしまうより、ソニーらしさとは何か、ソニーの原点に戻って考えようとなりました。すると、人がやらないことをやるのがソニーの企業文化であり、いろいろなビルの建て替えが東京のあちこちで起こっているなら、むしろ建てないほうがいいのでは、となったのです。

細谷 ソニーの根源は、人と違うことをやることにあると。

永野 その通りです。建てないなら、ここを何にしたらいいか、と議論が展開しました。そのとき、どこにヒントを求めたのかと言えば、50年前の1966年にソニービルを建てたときの思いでした。ソニー創業者の1人である盛田昭夫や、ソニービルを設計した建築家の芦原義信さんは当時、どんな思いでソニービルを建てたのか。盛田はソニービルの一角を「銀座の庭」と言っていました。ソニーという私企業でありながら、銀座の超一等地の場所をパブリックスペースにしようと考えていた。これはすごいな、と思いました。

 建てないのだから、公園にするのはどうか。近辺は休憩する場所が少ないし、50年間もお世話になった銀座への恩返しにもなる。そこから、公園にするならどうすべきかと、どんどん議論が深まりました。

周囲をビル群が取り囲む、東京・銀座の真ん中に「Ginza Sony Park」がある
(C)Ginza Sony Park

平日でも多くの人が集まる。2019年8月15日には累計来園者が400万人を超えた

若い人だけでなく、高齢者や外国人の姿なども目立つようだ

細谷 しかし公園にしてしまうと、それまで象徴的で有形化されていたアイコン性やソニービルでの物販などの売り上げが減ってしまいますよね。そういう話は出なかったんですか。

永野 もちろんありました。私が社長を務めるソニー企業にとっては当然、テナントの家賃収入なども減ります。銀座の超一等地を開かれた場所にするのは、世の中にとってはいいかもしれませんが、会社としてどうかと。しかし、人がやらないことをやる、という原点に立ち戻るとなると、ここを公園にしたことによる話題性や刺激性の価値は大きいと判断しました。建てないほうがブランド価値は上がるだろうと考えたのです。

 結果、オープンすると多くのメディアに取り上げていただき、お客さまにたくさん来ていただいた。その数は、2019年8月15日までの約1年間で400万人になります。平均すると1日で1万人くらい。もちろん土日のほうが多いのですが、銀座に遊びに来た人たちが、ふらっと立ち寄るなど、注目を集める施設になっている。400万人とソニーがコンタクトしているのがすごい。私はソニーパーク自体を商品とかサービスとして捉えています。だから「ウォークマン」「プレイステーション」「aibo」と同じで、400万人に楽しんでもらったことになる。

 ビルとか場というと、建物ではなく、その中に入っているものにフォーカスされがちで、以前のソニービルでもショールームにあるソニー商品がお客さまとのコンタクトポイントでした。しかしソニーパークは、ショールームではありません。公園であるという認知を高めるために、この1年は、あえてソニー製品をテーマにしたアクティビティーは実施しませんでした。それでもソニーパークの印象について、お客さまにアンケート調査すると、「遊び心がある」「他では見たことがない施設」「ソニーらしい」といった結果が得られました。ソニー製品がなくても、ソニーブランドのコアである遊び心だったり、人がやらないことをやることだったり、ソニーらしさを表現しています。

細谷 「遊び心がある」「ソニーらしい」というアンケート調査による結果は、オープン当初からですか。それとも、何かのきっかけで、そうした回答が増えたのでしょうか。

永野 18年8月にオープンしてから、ほぼ不動です。ビルを建てずに公園にしたということ自体が、もうソニーらしいというわけですし、地下もソニーらしい見せ方になっている。普通のビルは、外から入るところに、風除室や自動扉がありますが、それが一切ありません。地下鉄のコンコースから入っても扉がない。完全にシームレス。地下であっても公園だから、そうしたものをなくしました。だから、ものすごく遊び心があるように思われたのでしょう。

 設計段階では、風除室や自動扉がありましたが、徹底的に公園にこだわりました。公園に風除室や自動扉はありませんよね。「雨風が入ってきますよ、寒い日には冷たい空気が入ってきますよ」と言われましたが、公園だからそれは当たり前です。そうした中途半端ではない姿勢がお客さまに評価されたのでしょう。そこを妥協して商業施設に少しでも寄ってしまったら、公園には見えない。ブランディングの視点で言えば、ソニーの意思が感じられない。ブランディング的にまずい点ですから、たとえリスクがあっても踏み込んでよかったなと思います。

地下にも自動扉などはない。公園を造ってもソニーらしさがある(C)Ginza Sony Park

(日経クロストレンド2019年11月01日掲載の内容を転載しています。)


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