2018年07月01日
AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)が急速に進歩し、社会環境がデジタル化されつつある今は、個人間でモノやサービスが行き交う時代とも言えます。この連載は、業界を超えて顧客と共創しているブランディングデザインの最新の事例を通して、次世代のマーケターやデザイナーの皆さんと共に、C2C時代におけるブランドとデザインの関係について考えてみたいという思いから始まりました。
読者の皆さんの中には、ブランドマネジメントやデザイン、新規事業開発などさまざまな活動をしている方もいらっしゃることでしょう。近年は、課題が複雑化し、いったい何から手を付けて解決していけばいいのか、日々の業務の中で戸惑うことが増えているのではないでしょうか。
マーケティング戦略にしても、内部組織の問題やブランド戦略の構築プロセス、デザインの決め方など、何らかの疑問や不安を感じている方が少なくないと思います。その理由の一つは、図1のように日本の企業や自治体などの組織には、従来の成功体験や方法論がさまざまに存在していることです。このことが問題をさらに複雑化させている可能性があります。
図1 ブランディングデザインの能力と方法
また、近年取り上げられている“ブランド”や“デザイン”の定義も曖昧です。ブランドやデザインという言葉が乱用され、解釈そのものが多様化しています。併せて、ブランド価値へとつながるブランド認知やイメージの議論は客観視しにくく、組織内の意識をまとめていくことに苦労されている方も多いことでしょう。
このようなことから、私は現在のブランディングデザインには3つの課題があると考えています。①“デザイン”の乱用、②STPの複雑化、③個人間によるブランド体験です(図2)。最終的に顧客との共感を築くためには、ルール化されたフレームワークではなく、それらの課題を整理し、自らの意志と行動で推し進めていくチカラ(ヒューマンスケール性)こそ、次世代のブランディングデザインにとって不可欠である要素だと考えています。
図2 ブランディングデザインの課題
この数年で、特に“デザイン”の意味合いが変化しています。デザイン思考やコミュニティーデザインのように、ビジネスシーンの旬なキーワードとして乱用されています。
例えば“デザイン”の意味合いを整理すると、図3のように表せるのではないでしょうか。狭義のデザインには、グラフィックやネーミング、ロゴなど視覚を中心とした五感の提供。広義のデザインには、ユーザーの体験などのプロセスの提供があります。経営のデザインとしては、ビジネスモデルの設計などの価値創造の提供。そして、社会のデザインには、コミュニティーや環境における持続可能な活動が意味付けされていると整理できます。
図3 “デザイン”の意味の変化(経済産業省「第4次産業革命 クリエティブ研究会」報告書を基に筆者加筆)
従来、可視化される行為そのもの(Design)をどのように価値化(Branding)していくのかは、ブランディングデザインが担う役割でした。ブランディングデザインを定義するならば、「デザインという手段でそのブランドをより強くし、顧客の愛着(ロイヤルティー)を高めていくこと」と言えます。
図3のように今後、“デザイン”がさまざまな課題に貢献できることは明らかです。しかし、最も大切なことは“デザイン”をどのような意味合いで、どの範囲を示しているものなのかを組織全体で共有し合うことです。さらに“デザイン”の範囲に含まれる、使用者イメージや使用イメージ、ブランド・パーソナリティー、機能的・経験的便益、象徴的便益、ブランド連想が可能なユニークさや強さなども同じです。“デザイン”という行為で提供されたものは、すべてブランド資産として顧客に蓄積されるからです。
近年のデジタル化された環境では、情報の主導権が消費者へと移行しています。もはや“デザイン”するという行為自体を誰にでも可能にしてしまう環境が整いつつあります。これからは、直接的手段だけではなく、文化的要素や社会システムにまで影響するような持続可能な要素が“デザイン”に存在するのかが、私たち創り手に試される時代なのです。
このように、“デザイン”の再定義が行われているように、ブランディングデザインの対象は、可視化される行為だけではなくなってしまったのです。今後 は、狭義のデザインから社会のデザインまで、一貫した有形無形すべての振る舞いが、ブランディングデザインの対象になると言えます。
次回は中編として、ブランディングデザインにおけるその他の課題について考えてみます。
(日経クロストレンド 2018年4月9日掲載の内容を転載しています。)