アルケアは国産初の石膏ギプス包帯の開発・製造を機に、1955年に創業した会社です。高齢社会における医療が、疾病の治癒と生命維持を主目的とする「キュア中心」から、慢性疾患などを抱えながらも健康を保つことを目指す「ケア中心」への転換が求められる中で、アルケアは「高齢社会のエッセンシャルパートナー」として、患者さん、医療関係者の視点に立ち、予防、診断、治療、リハビリ、社会復帰にいたるまで、途切れることのないケアの提供で医療に貢献しています。
これまでにアルケアは、顧客調査および各事業の市場環境をもとに、会社の基本戦略となる「ケアプロセスデザイン戦略」や、ブランドメッセージ「つなぐ手あて、ひらくケア。」の開発など、ブランド戦略を数年に渡って策定し、実施してきました。しかし、会社のビジョンを含め、それらは個別に存在しており、体系的に紐付けられてはいませんでした。そのため、社員一人ひとりが「ケアプロセスデザイン戦略」や「つなぐ手あて、ひらくケア。」を日々の行動に置き換えて実践するためには壁がありました。
また、以前に開発したヴィジュアルアイデンティティガイドラインも、詳細ではあるものの、ブランド戦略とは紐づいていませんでした。
「ブランド戦略の体系立て」
その結果、時間をかけて開発された戦略やブランドメッセージ、デザイン要素なども、どんな目的で、どのようにブランドの価値向上に活用すればよいか社員には分からず、適切に運用されにくい状況にありました。
また、対外的にもアルケアが何を提供する会社なのかを明解に発信しにくい状況でした。
このような状況を改善するために、社員が共通して理解でき、かつ日々の行動の指針となるアルケアの価値の定義はもちろん、今までのブランドプロジェクトを通じて制定されてきたこと全体を包括するブランドの枠組みをつくり、ブランド戦略を実体化できるようにすることが必要でした。
「ブランドの世界」
カラーパレットやブランドビュー、そしてブランドキーワードなど、アルケアの世界観を構築する要素は既に沢山ありましたが、これから獲得していきたい顧客の欲求や、アルケアとして新たに付与したいブランドイメージを踏まえた内容ではありませんでした。さらに、ブランドメッセージである「つなぐ手あて、ひらくケア。」とのつながりが不明確であり、結果として、アルケアらしさの創出には至っていませんでした。
「潜在顧客とその欲求の特定」
ブランドの構造を整理するため、アルケアの顧客を定義する必要がありました。まずバニスターが行ったのは、社内のマネジメントインタビューです。その結果、商品選定の決定権を持つ医療関係者のみをターゲット顧客と捉えるのではなく、その先にいる患者さんやそのご家族もブランドがターゲットとすべき顧客であると捉え直すことになりました。さらに、医療従事者・看護師だけでなく、患者さんのご家族や大切な人も患者さんをケアすることから、肩書きではなく、その人の行為に着目して、今日よりも明日をよくしたいと思っている「ケアをする人」と、「ケアを受ける人」をアルケアのターゲット顧客と定めました。
「差別化要因と提供価値」
アルケアの社憲の一つ目が「親切な製品をつくる事」であり、「医療関係者の方々、そして患者さんが抱えている悩みを解決できる製品をつくる」ということを表しています。この創業の志をさらに深化させ、アルケアの差別化要因とは、相手のことを想う心持ちを土台として、相手の顕在化された欲求だけでなく、潜在的欲求まで察知する洞察力、そして、自社がつくる製品・情報・サービスをもっとよくできないかと、徹底的に磨き抜くことだと考えました。そして、この差別化要因を通じて、ケアを受ける人の症状に関する不安を和らげ、前向きな気持ちにすることや、よりよい治療方法を模索する際にケアをする人が感じるもどかしさを解消することが、ターゲット顧客に提供するべき価値であるとしました。そして、この提供価値が社員一人ひとりの日々の活動を引き出すなど、アルケアのすべての取り組みの起点となりました。
「ブランドの世界観の創造」
ブランドグラフィック「Circle Stones」
ブランドグラフィックのテーマは、自然界の石が形づくられるプロセスに着想を得て、「Circle Stones」としました。上流にあるゴツゴツとした石は、川の流れによって角が取れて行き、下流に流れ着く頃にはひとつひとつ個性のある磨かれた小石となります。これらの小石は「洗練(研ぎ澄ます)」を表し、小石の色や形が一つひとつ違うことは、それぞれの人にとっての「最適なケア」を表しています。小石がサークル状につながることは、「切れ目のないケア(ケアプロセスデザイン)」を表現しています。このように提供価値に基づいたブランドグラフィックを設定することで、ブランドの表現要素が意味を持って提供価値とつながり、さまざまな場面でアルケアの魅力を発信することができるようになりました。
バニスターはまた、ブランドステートメントの開発も行いました。ブランドステートメントはブランドメッセージである「つなぐ手あて、ひらくケア。」に基づきながら、提供価値やミッションをより顧客にとってわかりやすく表現したものとなっています。
策定したブランド戦略やそれに紐づいたクリエイティブの表現などを、ブランドガイドラインという形にまとめました。このブランドガイドラインでは、アルケアの価値を整理する意義や目的、届けるべきお客様、提供価値の定義、持つべき世界観やその表現方法などが書かれており、読み進めていくことで、アルケアのあるべき姿を体系的に理解することができます。
私自身これまでさまざまなかたちでアルケアのブランド開発に取り組んでくる中で、心地よいコピーやクリエイティブ、雲を掴むような社風開発などに依存したブランド開発に疑問を持つようになっていました。
今回バニスターさんにお手伝いいただき、ブランド体系をバニスター社オリジナルのフレームワークに沿って整理していく中で、「親切な製品・情報・サービスを開発し顧客に届ける」という当たり前の企業活動こそがブランド開発そのものであることに気付かされました。
創業の原点かつ未来に向けた約束を、「親切を研ぎ澄ます」というブランドタグラインをはじめとした体系的で具体的な言葉とビジュアルで表現できたことは、社員一人一人がブランディングの主役として、自ら考え日々の仕事を進めていく上で大きな力になると感じています。
アルケア株式会社 代表取締役会長 鈴木輝重 様