2018年07月01日
前編では、ブランディングデザインの第1の課題として、“デザイン”の意味の変化について説明しました。“デザイン”の意味が変化している以上、ブランディングデザインの定義も曖昧化しています。
そもそもブランディングデザインは顧客視点のデザインであるべきです。顧客視点のデザインを具現化するには、市場の細分化(セグメント:S)をして、ターゲットを明確(ターゲティング:T)にし、競争優位性のある立ち位置(ポジショニング:P)を設定する必要があります。これら3つの要素であるSTPこそがデザインの要になります。
しかし、市場が複雑化し、もはやどこからどこまでが競合なのか、その範囲すら見えにくい時代でもあります。また、顧客が求める情報が過多になればなるほど、ブランドへの愛着(ロイヤルティー)を維持し続けてもらうことは難しくなります。愛着(ロイヤルティー)を刺激するために短期的なキャンペーンを乱発することも、ブランディングデザインの本質ではありません。
中長期的な視点で愛着(ロイヤルティー)を醸成し続ける役割を担うブランディングデザインは、常に顧客の欲求への理解を深め、そのために必要なアプローチを提供し続ける義務があります。つまり、持続可能な本質的な“デザイン”を探し出すことが大切なポイントなのです。
この問題については、すでに私の前著『Brand STORY Design ~ブランドストーリーの創り方~』(日経BP)の中でも「原風景」と「遅効性」について取り上げ、ブランディングデザインにおけるその重要性を議論してきました。フォロワー数、リツイート数、いいね!の数、コンバージョン率などは、認知や理解の度合いを把握するための目安にはなるものの、それだけでは顧客と必ずしも継続的で熱狂的な絆が生まれたとは言い切れません。
つまり数の論理だけではなく、顧客によるブランドへの愛着をどのように創造し、継続するのかという課題を解決する義務が、ブランディングデザインにはあるのです。その結果、唯一無二のブランド記憶へとつながっていることがゴールだからです。
私たちが行うべきことはとてもシンプルです。顧客とブランドの間に、共感される関係性をつくり上げていくためには、人間にしか探ることができない、人間の本質的欲求への深い理解とアプローチがどうしても不可欠なのです。
同時に、顧客による情報ストックの変化も注目すべき点です。いわゆる「インスタ映え」する画像や動画などは、プロモーション的要素だけではなく、顧客によるブランドの原体験や記憶、ブランドへの愛着にまで影響しています。
図4 情報ストックの変化
図4の左図のように、今まで顧客はブランド情報がある1つの場所へ誘引されていました。これからは図4の右図のように、顧客は分散された情報を、顧客の記憶と体験の中で上手に統合し、つなぎ合わせていきます。私たちには、この分散された顧客接点をどのように緩やかに統合していくべきなのかという視点が不可欠になります。
私たちには、顧客にとって有益な知識とは何かを知り、拡散されたリアルとデジタルの接点を統合することで、愛着と記憶の新しい関係を創り出すことが求められているのです。
例えば、顧客視点に立てば、企業から一方的に発信されたものより、口コミやツイートのように顧客間で交換された情報の方がより価値があります。今後、個人間によるコミュニティーデザインやチャネルデザインは、次世代のマーケターやデザイナーたちの斬新なアイデアによって、さらに変革されていく分野となるでしょう。
これからのC2C時代におけるブランディングデザインは、その定義と意義を明確にする必要があります。C2C時代では、単純に”“デザイン”をアナログからデジタルへ、デジタルからアナログへと移行させることに意味はありません。
図5 ブランディングデザインの意味と手段
図5のように、ブランドが提供価値を明確に描き、狭義から社会的な幅広い意味性を持たせた“デザイン”によって、その価値を実現する本質的な“デザイン”を生み出し、C2C時代におけるブランドの愛着と記憶に影響を及ぼすことができます。
優等生的なブランド創造は終焉を迎えました。机上でつくられたブランディングデザインは顧客の気持ちを一寸も動かしません。なぜなら、誰もがネットで検索し、正しい情報を探し出し、いつでもその真実を手に入れることが可能になってしまったからです。
冒頭に説明した狭義のデザインによって表面的に課題を解決したとしても、顧客から見れば本質的な価値は何も変化しません。むしろ表面的な解決はネガティブイメージへと働きます。これからは、そのブランドの深層にある性根や真実が重要視されていると言っても過言ではありません。
以上、ブランディングデザインが抱える3つの課題(① ”デザイン”の乱用、②STPの複雑化、③個人間によるブランド体験)を解決するためには、顧客の気持ちを自分ごととして捉え、生活者としての肌感覚をもって、共感を引き出し、強い愛着を生み出す必要があります。日ごろ、みなさんが生活者として求めるように、今の顧客が知りたいことは本当のことです。誠実で、幸せに満ちていて、ほんの少しだけユニークな豊かさを自分の暮らしに与えてくれる存在が求められているのです。
今回は、現在のブランディングデザインにおける課題について話しました。
次回は、引き続き、C2C時代におけるブランドの愛着と記憶の関係について、さらに深く考えてみたいと思います。
(日経クロストレンド 2018年5月28日掲載の内容を転載しています。)