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C2C時代のブランディングデザイン
花王、ESG戦略の新ブランドMyKireiを米国で始めた理由(インタビュー編)

2021年05月28日

ブランディングプランナーの細谷正人氏が新たな視点でブランディングデザインに切り込み、先進企業に取材する連載「C2C時代のブランディングデザイン」。今回は花王の新ライフスタイルブランド「MyKirei by KAO」を取り上げます。今回はインタビュー編。

2020年4月に「Kirei Lifestyle」を具現化する新ライフスタイルブランド「MyKirei by KAO」を立ち上げ、シャンプーやコンディショナー、ハンドウォッシュの各商品を米国で発売した。パッケージはプラスチックのボトルではなく、フィルム容器「Air in Film Bottle(エア イン フィルム ボトル)」を初めて採用。3枚のフィルムを張り合わせて、容器の外側に空気を入れて膨らませる。中身が少なくなっても、ボトルの形状を維持しながら自立する

大谷 純子(おおたに じゅんこ)氏

花王 ESG部門 部門推進・ESG広報担当部長
大手マスコミにて9年間、番組制作現場を経験。主に海外ドキュメンタリーや国際共同制作に携わる。2006年 花王に入社。企業理念「花王ウェイ」の花王グループ啓発活動、社内広報を経て、13年グローバルコーポレートコミュニケーション推進を担当し、中期経営戦略に基づくプロジェクトを推進。17年より経営サポート部門を兼務し、トップコミュニケーションのサポートも担当。18年より現職(写真/名児耶 洋)

畑瀬 孝利(はたせ たかとし)氏

花王 欧米事業統括部門 欧米事業部 新規ビジネス開発担当部長
1991年花王入社。家庭品販売部門において、国内営業、アジア販売支援業務を経験。その後、2001年より事業部でのマーケティング担当を経て、06年Kao Consumer Products (Thailand)に駐在、東南アジアのスキンケアブランドマネジメントを担当。13年よりKao USAに駐在し、Vice President、Liaisonとして経営全般にわたってトップサポートの役割を担った。19年に帰国し現職(写真/名児耶 洋)

細谷 サステナビリティー(持続可能性)社会を推進するため、花王は2019年4月にESG(環境・社会・ガバナンス)戦略として「Kirei Lifestyle Plan」(キレイ ライフスタイル プラン)を打ち出し、20年4月にはKirei Lifestyleを具現化する新ライフスタイルブランド「MyKirei by KAO」(マイキレイ バイ カオウ)を立ち上げて、シャンプーやコンディショナー、ハンドウォッシュの各商品を米国で発売しました。こうした動きの狙いを、お聞かせください。

大谷 私が所属する「ESG」と付いた部門は、あまり聞き慣れない名称だと思います。ESGとは、環境(Environmental)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取ったもので、前身は「サステナビリティ推進部」でした。プラスチック包装容器を削減する取り組みなど、当社はメーカーとして以前から環境に配慮してきましたが、次の段階として「S」の社会、「G」のガバナンスも強化して一体化することで、ESGを企業経営にしっかりと組み込もうと考えました。最近は他社からもESGという言葉が出てきていますが、当社は18年からESG部門を設けています。

花王は1887年に創業し、90年に「花王石鹸」を発売。2020年で133年になります。近代化を急ぐ激動の明治時代の日本で質の高いせっけんを社会に送り出し、清潔で安心できる人々の暮らしを実現しようとしました。個々人そして家族の心が満たされれば、地域のコミュニティーや社会が繁栄し、国家の繁栄にもつながる。そこに貢献することが自分たちの事業の使命であり、今で言うサステナビリティーにつながっていると思います。

それから商品や時代は変わりましたが、創業当時のスピリットを生かし、「豊かな生活文化の実現と社会のサステナビリティへの貢献」を使命として、133年間ずっとやってきています。花王の企業理念である「花王ウェイ」には、「私たちは、消費者・顧客の立場にたって、心をこめた“よきモノづくり”を行ない、世界の人々の喜びと満足のある豊かな生活文化を実現するとともに、社会のサステナビリティ(持続可能性)に貢献することを使命とします」とあります。「心をこめた」という言葉を企業理念に入れる企業はあまりないと思いますし、私は個人的に気に入っています。

17年には「自ら変わり、そして変化を先導する企業へ」をスローガンに掲げ、4カ年の中期経営計画「K20」をスタートさせました。30年までに達成したい姿を「グローバルで存在感のある会社『Kao』」とし、事業の持続的成長と持続的な社会の実現のために、ESGを重視しながら、利益ある成長の実現に取り組んでいます。商品の開発に設計の段階からESGの視点を盛り込み、環境や社会に貢献しつつ、利益を上げて事業も伸ばすという攻めのESGを狙っています。

そこで推進している戦略が、Kirei Lifestyle Planです。Kirei Lifestyleとは「こころ豊かに暮らすこと、すべてに思いやりが満ちていること」を意味しています。自分自身の暮らしが清潔で満ち足りているだけではなく、周りの世界もそうであることを大切にする。自分だけじゃなく、社会、さらには地球もということです。日本語の「きれい」という言葉は「美しさ」や「清潔」という意味だけでなく、心の状態や生きる姿勢も表現しており、それは自分自身に加えて社会そして地球の「きれい」にもつながっていくと考えています。Kireiとして英語表記にした理由は、きれいをグローバルに実現したいからです。当社の考え方を、どう表現していくか。そこで何か象徴的なブランドを立ち上げようとなったのです。

花王の企業理念「花王ウェイ」では、「豊かな生活文化の実現」に向けてビジョンや価値観、行動原則を定めている

Kirei Lifestyle Planとして2030年までにどうあるべきかを掲げ、花王の目標を明確にした

フィルムで構成する新発想のパッケージ

細谷 ESG戦略であるKirei Lifestyle Planに直結した考え方を反映させたMyKirei by KAOの商品を、なぜ日本ではなく米国で発売したのですか。

畑瀬 今回のブランドづくりは従来とは違う形で始まっています。例えば、衣類が真っ白になる洗剤、ふけやかゆみを防ぐシャンプーといった機能を中心に据えたブランドではなく、Kirei Lifestyleという考え方を軸にブランド設計を行いました。こころ豊かに暮らすこと、すべてに思いやりが満ちていること、を商品コンセプトとして表現する必要があります。こうした我々の考え方を受け入れてくれる生活者の意識は、日本よりも米国のほうが高いのではないかと思いました。さらに、花王の知名度が米国市場ではあまり高くない、という実情もありました。花王は米国で、ヘアケアとスキンケアの事業を展開していますが、これまで花王という名前は、積極的には出していませんでした。そこで今回の取り組みが、花王という会社を知っていただくよい機会になると考えたのです。

環境負荷の低減を狙い、MyKirei by KAOのシャンプーやコンディショナー、ハンドウォッシュは、花王が新たに開発した容器「Air in Film Bottle(エア イン フィルム ボトル)」を初めて採用しています。今までのようなプラスチックのボトルとは全く異なり、プラスチックのフィルムで構成しています。詰め替え用容器と同じような材質で、3枚のフィルムを張り合わせて、容器の外側に空気を入れて膨らませることで自立するようにしています。中身が少なくなっても、ボトルの形状を維持しながら自立します。

こうした技術により、プラスチックの使用量を今までのボトルに比べて約50%削減できました。使用するに従い、中が真空になっていく構造なのでシャンプーなどを最後まで絞り出すことができ、中身を無駄にせずに使える。付け替え用のフィルム容器も開発し、ポンプ部分を繰り返し利用できるようにしました。海外は日本の生活者のように、詰め替えるという習慣が少ないので、付け替え用にしたのです。捨ててもプラスチック減になっていますから、環境負荷も少なくできる。

中身にもこだわっており、シャンプー、コンディショナー、ハンドウォッシュすべてにおいて、花王の最新技術を採用しております。さらに成分としてツバキ成分とライスウオーター成分をシャンプーとコンディショナーに、ハンドウォッシュにはユズ成分とライスウオーター成分を入れて、日本のイメージを出しています。ネーミングでは、きれいという言葉をそのまま使いました。「私なりのきれいライフ」ということで「My」を付けて「MyKirei」とし、花王を知っていただくために「by KAO」としたのです。

ロゴはニューヨークのデザイナーがつくりました。非常にいいロゴで、漢字の「人」をイメージして人と人が手をつないでいるという意味を込めています。自然環境を意識して、山とか波のようにも見えます。単にエコを目指したブランドではなく、家族の絆とか思いやりというコンセプトで、他社とは違う世界観でつくっています。「三日月」は花王のシンボルですが、外側の円はちょっと不完全な丸にしており、ブランドとして完成したものではなく、これからもどんどん進化していくものという思いを込めています。

細谷 最近は国内外で多くの企業がESGを宣言していますが、企業ブランドや事業・製品ブランドとひも付いていないように感じます。ビジョンと現場がつながらないケースが多く見受けられます。花王の場合、企業ビジョンを事業・製品ブランドへと、スマートに連携させていますね。

畑瀬 確かにそこは非常に難しく、ESGの考え方には共感していただけたとしても、実際に商品として購買行動につながるかどうかは別の話です。生活者が選ぶシャンプーは、多くの選択肢の中で1つだけですから、個人の生活価値に寄り添った商品でなければ、買っていただけません。企業としてのESGのビジョンと、商品ブランドとしての「MyKirei by KAO」をどう重ね合わせ、ブランドとしての魅力を最大限高めるかに知恵を絞りました。そこで我々がトリガーとして活用したのが「日本」という要素、つまり海外から見た「ジャパン」でした。日本のミニマルな暮らしやシンプルなライフスタイルのイメージを、ブランドの世界観として表現しようと考えたのです。

花王はせっけんから始まり、ずっと日本人の清潔で美しく健康な暮らしに貢献してきました。そのため、花王なりの日本文化の翻訳の仕方とか、ビジュアルの見せ方といったノウハウはあると自負しています。

今回も日本の伝統の重みや雰囲気、世界観をふんだんに取り込み、ブランドに深みを与えるようにしました。生活者にとって「ESGで世の中にいいことをしている」だけではなく、花王という日本企業のブランドに愛着を感じてもらえるようにプロダクト設計にも、さまざまな工夫を凝らしました。

花王が持っている最新の技術により、髪が柔らかくなるとか泡切れが早いとか、手が荒れないなどの機能はありますが、加えて日本的なイメージのフィルターを通したことで、日本企業である花王のブランド力を強く発信できるようにしたのです。企業のビジョンと商品ブランドがうまく結び付いたのではないでしょうか。具体的な数字は言えませんが、発売後はアマゾン上で良い評価やコメントが多数、寄せられています。

細谷 MyKirei by KAO ブランドは今後、米国以外でも発売するのですか。

畑瀬 はい。将来的には米国だけではなく、グローバルに広げていきたいと思っています。まず米国で成功モデルをつくり、欧州やアジアにも展開を検討できればと思います。

細谷 ESG戦略を製品ブランドで実現していく場合、最も難しい点は何でしょうか。

大谷 企業で言えば、社員のマインドですね。企業のビジョンに誇りを持って携わろうとしなければ、ESGは進まないでしょう。自分たちが今までやってきたことの上に、新たな考え方を植え付けるのは簡単ではありませんが、それもMyKireiブランドの成功によって変わってきました。そういう意味でもすごく大事に育てていきたいブランドです。

畑瀬 日本や米国でも生活者のサステナビリティーに対する意識がどんどん変わってきていると思います。特に新型コロナウイルス感染症によって、社会への貢献などソーシャルに対する意識はものすごいスピードで変わるでしょう。そうした生活者の半歩先を常に読んでいかないと、すぐに陳腐化してしまう。進化し続けるスピード感と大胆なチャレンジが重要だと思いますね。

細谷 本日は貴重なお話をありがとうございました。

(画像提供/花王)

(日経クロストレンド2020年09月08日掲載の内容を転載しています。)


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