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C2C時代のブランディングデザイン
無印良品の自動運転バス、移動店舗や図書館にもなり地域との共生強化(解説編後編)

2022年06月01日

バニスター代表の細谷正人が新たな視点でブランディングデザインに切り込み、先進企業に取材する連載「C2C時代のブランディングデザイン」。前回に引き続き良品計画の自動運転バス「GACHA」を取り上げます。今回は解説編の後編。



GACHAの内部は一般的な座席の機能だけではなく、移動する店舗や図書館も想定してデザインしている

 1980年にスタートした無印良品には基本的なものづくりへの姿勢として、(1)素材を見直し適材適所に、(2)製造工程を見極めて無駄を省く、(3)包材を簡略化する、の3つがあります。これらは創業40周年を迎えた今でも大切なプリンシプルになっています。

 しかし、ものを売るだけで「感じ良いくらし」を伝えることは難しくなり、生活者に無印良品の思想が伝わりづらくなってきたといいます。実際、国内で言えば現在約490カ所の店舗のほとんどが都市やその近郊にあり、過疎地には展開していません。

 地域のそれぞれの課題に対し、無印良品は地道なアプローチで社会貢献活動を行っています。具体的には千葉県鴨川市の棚田再生支援や南房総市の白浜での廃校の活用、シャッター商店街に見られる地域の中心部の活性化などです。その延長として2018年2月にソーシャルグッド事業部を発足させており、「感じ良いくらし」の“グランドデザイン”を描くという発想に結び付いていきます。

 「地方創生の手法として、市街地のスケールを小さく保ち、歩いて行ける範囲を生活圏と捉えたコンパクトシティーという発想があります。しかし既存の市街地は1つずつ結んでいく必要がありますから、公共交通機関は必要不可欠な存在です」(良品計画ソーシャルグッド事業部の斎藤勇一さん)。まさにGACHA(ガチャ)は課題解決のピースにはまり、無印良品のグランドデザインを完成させる必要なツールだったのです。


2018年4月にオープンした千葉県鴨川市の総合交流ターミナル「里のMUJI みんなみの里」。良品計画が指定管理者として運営しており、地域の農産物や物産の販売に加えて無印良品の店舗および飲食業態「Café&Meal MUJI」などがある

 一般的に自動運転の話になると、技術や規制の問題ばかりが注目されがちです。しかしGACHAのプロモーションムービーには、バスが図書館や無印良品の店舗などを移動していく様子がありました。その映像を見ると、昔はよく家の近くに来ていた豆腐屋さんのような、肌触りのある心地良さを感じました。しかもネーミングはGACHAであり、幼い頃に遊んだ、あのコロコロ感のあるカプセルトイの“ガチャガチャ”がデザインコンセプトにありました。丸々としたかわいい感じやワクワク感が街の中に幸福感を与え、GACHAのパーソナリティーイメージを形づくっていると言えます。

 他社の自動運転バスのコンセプトとの違いは明確です。未来都市を創造するという感覚ではなく、いつまでも未来に残しておきたい原風景や、人間臭いものを暮らしの中に残しておきたいというヒューマニティーのある情緒的な価値を、GACHAというコンセプトにしっかりと込めているのです。 一般的に自動運転の話になると、技術や規制の問題ばかりが注目されがちです。しかしGACHAのプロモーションムービーには、バスが図書館や無印良品の店舗などを移動していく様子がありました。その映像を見ると、昔はよく家の近くに来ていた豆腐屋さんのような、肌触りのある心地良さを感じました。しかもネーミングはGACHAであり、幼い頃に遊んだ、あのコロコロ感のあるカプセルトイの“ガチャガチャ”がデザインコンセプトにありました。丸々としたかわいい感じやワクワク感が街の中に幸福感を与え、GACHAのパーソナリティーイメージを形づくっていると言えます。

 他社の自動運転バスのコンセプトとの違いは明確です。未来都市を創造するという感覚ではなく、いつまでも未来に残しておきたい原風景や、人間臭いものを暮らしの中に残しておきたいというヒューマニティーのある情緒的な価値を、GACHAというコンセプトにしっかりと込めているのです。

情緒的なことは、暮らしそのものからにじみ出てくる

 無印良品は02年から本格的にオブザベーション(観察)という視点を取り入れてきたといいます。マーチャンダイザーとデザイナーが一体となり、オブザベーションによって商品を作り上げてきたのです。

 「創業時は40品目から始まって、現在は7000品目あります。しかし、00年の初めには9000品目までものを作ってしまった。そのとき本当に作るべき必要なものを見つめるために、当社のアドバイザリーボードのメンバーであるデザイナーの深澤直人さんや原研哉さんの助言でオブザベーションを始めました」(良品計画の生活雑貨部企画デザイン担当の矢野直子さん)

 無印良品のものづくりは、数十軒もユーザーの自宅を訪問して観察し、図面を描いて、生活環境の課題や気づきを見つけます。「情緒的なことは暮らしからにじみ出てきますから」(斎藤さん)。

 自宅への訪問を徹底的に行い、それらで得られた知見を無印良品は重要視しています。このような定性的な積み重ねが独自の感性価値を生み出しているのです。

 同様にソーシャルグッド事業部でも、地域の声を集め、街歩きなどでオブザベーションしています。その一例として、無印良品は東京・豊島区における公園の再開発事業でも、地域住民から意見を聞いているそうです。「公園にテントを張っていると、寒い中でも住民の人たちが集まって、自発的にいろいろ発言してくれます。話を聞く場をつくることが大切です」(矢野さん)。

 さらにオブザベーションの必要性を感じれば、もう一歩踏み込んで社員が該当する地域に住むこともあるそうです。課題を「自分ごと化」するには、地域住民の視点で考えていく必要があるからです。オブザベーションによって、数千品目ものものづくりを行い、そこににじみ出てくる暮らしを捉え続けてきたからこそ、無印良品は地域の課題に対しても住民に分かりやすい施策や言葉で語りかけることができるのです。それこそが、無印良品の強みなのです。

東京・豊島区における公園の再開発事業では「井戸端会議」として住民の意見を聞いている

ソーシャルグッドは、最後はものづくりに回帰する

 「これからの20年を考えると、ソーシャルグッドとは何かを考えることは、無印良品のものづくりに確実に戻ってくるのではないかと思います」(矢野さん)

 ソーシャルグッドの視点で改めて見れば、一人暮らしの生活に必要なもの、都会で必要なもの、地域で必要なものが、違った景色として見えてくるかもしれません。フィンランドのSensible 4との共同開発がなかったとしても、必然的に無印良品が自動運転バスをつくることになっていたでしょう。

 その地域に住んで実際に暮らすことで、本当に必要なもの、不必要なものが見えてくるという、無印良品らしい100パーセントリアルな“身の丈感”のある考察は、SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みにもつながる本質的な姿勢として捉えるべきです。

 前回に指摘した“地と図”の解釈で言えば、今までの無印良品は黒子的で背景的なものづくりである「地」の視点にありました。しかし無印良品の次の20年は、地域社会を俯瞰(ふかん)する姿勢でグランドデザインを描き、明瞭に知覚された「図」も併せて描くことが求められてきたようです。今後、デジタル社会が加速し、人と人が直接つながりやすくなる時代へ変化するからこそ、企業が考えるブランディングデザインには“地と図”が不可欠になっていると思います。GACHAやソーシャルグッド事業部の活動は、無印良品というブランドが次の段階へと向かっていることを表しているのです。

ソーシャルグッド事業部の発足により、無印良品のブランディングは新たなステージへと進み出した(作成/細谷正人氏)

フィンランドの街中を走るGACHAは、地域との共生を目指す存在になっている

(写真提供/良品計画)

(日経クロストレンド2020年07月22日掲載の内容を転載しています。)


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