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C2C時代のブランディングデザイン
無印良品が自動運転バス「GACHA」でデザインする世界戦略(インタビュー編)

2021年05月25日

ブランディングプランナーの細谷正人氏が新たな視点でブランディングデザインに切り込み、先進企業に取材する連載「C2C時代のブランディングデザイン」。今回は自動運転バス「GACHA」のデザインを担当した良品計画へのインタビュー編。

(写真/丸毛 透)

矢野 直子(やの なおこ)氏

良品計画 生活雑貨部 企画デザイン担当部長
1993年、良品計画入社。店舗勤務を経て生活雑貨の商品企画を担当。2002年より3年間スウェーデンに移住、欧州MUJIの商品企画開発に従事。帰国後、生活雑貨部企画デザイン室でFound MUJIなどを担当。08年、伊勢丹研究所(現、三越伊勢丹研究所)に入社。リビングフロアのディレクションと「moreTrees/鳩時計」「マルニ木工/ふしとカケラ」などの商品企画に携わる。13年より現職。14年から多摩美術大学統合デザイン科非常勤講師

(写真/丸毛 透)

斎藤 勇一(さいとう ゆういち)氏

良品計画 ソーシャルグッド事業部 部付課長
2018年より良品計画ソーシャルグッド事業部に所属。地域のさまざまな社会課題に取り組み、新たな生活価値を創出するためのソーシャルリノベーション事業に従事。 GACHAプロジェクトでは、グランドデザインの策定とロードマップの立案を行うとともに、Sensible4とフィンランドでの実証試験の対応を行う。現在ソーシャルグッド事業部部付課長を務める

良品計画がデザインした自動運転バス「GACHA(ガチャ)」。車体の前後を意識させないユニークなデザインで2019年度グッドデザイン金賞を獲得している

細谷 フィンランドで2020年中にも実用化を目指す自動運転バス「GACHA(ガチャ)」のデザインを良品計画は手掛けています。公共交通機関として自動運転の研究を行うフィンランド企業のSensible 4と、17年からプロジェクトを推進しています。大雨や霧、雪といった過酷な気象条件でも動く点が特徴で、本稼働を目指して現在はヘルシンキ近郊で公道での実証実験を推進中です。

 この連載では、CtoC時代の中でお客さまと企業がどのように関わっていくかをテーマにしています。特に両者の関係性や“間合い”といった部分がどう変化していくのかに私は関心を持っています。そのため生活雑貨の「MUJI」(無印良品)ブランドで知られる良品計画が、なぜ自動運転に関心を示したのか、しかも乗用車ではなくなぜバスだったのかをぜひ聞きたいと思っています。

矢野 プロジェクトのきっかけは、フィンランドのヘルシンキで毎年開催される伝統あるインテリアデザインの見本市「Habitare(ハビターレ)」に、会長の金井(政明)が17年の開催時にトークイベントで招待されたことでした。世界中で「感じ良いくらし」を提案している無印良品の姿勢などを伝えた他、今後の暮らし方として誰もがシェアをするモビリティーの存在が普通になっていくだろうという考えを話しました。それをSensible 4のメンバーが聞き、「自分たちがやりたいことと同じだ」と共感していただいたのでデザインの依頼がありました。

 無印良品は日用品などをはじめ、最近は家やホテルまでつくっていますが、乗り物はほとんど手掛けていません。そこでまずは、Sensible 4のメンバーに会いに同年12月にフィンランドに行きました。Sensible 4は公共性を重視し、個人の車ではなくバスの開発を狙っていました。気候が厳しい国のため全天候型として開発を進め、北極圏でも対応できる高い技術を持っていました。ただエンジニア集団なので、デザインの支援が欲しかったそうです。

 フィンランドに行って私たちが強く感じたことは、行政から市民レベルまでデザインに対する高い意識が浸透している点でした。国土の多くが森林地帯で、豊かな自然と人が共生しているような国だからでしょうか、暮らし方や人と人とのコミュニケーションまでも「デザイン」として捉えていました。街中の商店を運営する普通のおじさんも、デザインを口にするほどでした。だからこそSensible 4もデザインにこだわりたかったのでしょう。デザインを重視するという企業の姿勢が当社と合致していたので、引き受けようと考えたのです。

 加えて今回は個人の車ではなく、公共交通機関であるバスのデザインだったことも引き受けた理由です。「感じ良いくらし」を実現するため、当社は商品の開発以外に社会課題の解決にも目を向けています。その視点からすると、高齢化が進む日本では、バスの重要性が高まっていると思います。地方の足として不可欠ですが、運営費などがハードルとなり路線維持が難しい状況にあると聞きます。そうした社会課題をSensible 4の技術で解決できるかもしれないと思ったからです。

 このため単なるバスのデザインにとどまらず、社会課題の解決としてバスを中心にした地方のグランドデザインづくりも視野に入れています。例えば、バスを中心にしたエリアのデザインを考えることで、人と人、人とエリアを結ぶ新しいコミュニケーションツールの姿を打ち出していきたいと思っています。

 フィンランドの法律は他国と異なり、自動運転による公道の走行が既に認められており、実証実験には最適です。フィンランドや日本、そしてさまざまな国にも展開していく計画です。


2019年3月8日に、フィンランドのヘルシンキ中央図書館で開催したワールドプレミア。実働車両のプロトタイプを一般公開し、冬の天候の中での走行を体験できる試乗会を行った。大勢が集まり、自動運転の公共バスに高い関心を寄せていた

「ソーシャルグッド事業部」を発足、地方創生事業に乗り出す

細谷 グランドデザインの考え方は、今回のプロジェクトで初めて出てきたのでしょうか。それとも以前からあったのでしょうか。

矢野 ここ最近ですね。当社は素材を見直し、生産工程の手間を省き、包装を簡略にするなど、シンプルで美しい商品を作り続けてきました。1980年に始まった無印良品というブランドは、2020年に40周年を迎えますが、これらの方針は今でも大事にしています。

 ただし良い商品を開発しても、販売エリアは主に都市周辺です。では地方はどうするか。商品を開発して「感じ良いくらし」を店舗から伝えるだけではなく、別のアプローチが必要ではないかと思ってきました。そこで3年ぐらい前から地方にある道の駅を再生させたり廃校を再活用したりするビジネスを、水面下で続けてきました。今までの実績を踏まえ、18年2月にソーシャルグッド事業部と呼ぶ部門を発足させ、社会課題の解決の一環として、地方創生の事業に正式に乗り出したのです。こうした動きが、グランドデザインを描くという考え方に結び付いたのです。ソーシャルグッド事業部とGACHAのスタート時期は同じぐらいだったので、GACHAのプロジェクトで初めてグランドデザインを打ち出したわけではありません。

斎藤 ソーシャルグッド事業部の狙いは地方のさまざまな社会課題に取り組み、新たな生活の価値を創出しようということにありました。道の駅や廃校に加えて古民家の利活用、さらには“シャッター通り”となっている中心市街地の活性化なども進めています。

 どの地域でも地元の方々と一緒に取り組んでおり、いろいろな課題を聞いていくと、どうしても移動手段に対する不安の声が出てきます。地方では車が不可欠ですが、高齢者になれば免許返納を迫られ、買い物に行けないと言う人がたくさんいました。そうした状況にGACHAのような自動運転によるバスが、人と人、人とエリアを結ぶコミュニケーションのツールとして当てはまるのではと考えています。

 当社がGACHAを手掛けていることを知って、日本の地方でもGACHAを使いたいというお声も頂戴します。自動運転というと先進的な技術の話になりがちですが、移動手段であり、車に変わりはありません。グランドデザインにおいては、当社だけで考えるのではなく、地方の方々の声を聞いて活用シーンを一緒に考えていきたいですね。

矢野氏と斎藤氏にインタビューするバニスターの細谷正人氏(写真/丸毛 透)

カプセルトイの「ガチャガチャ」のイメージから「GACHA」に

細谷 GACHAのデザインは、どういう発想から生まれたのでしょうか。

矢野 当社のアドバイザリーボードのメンバーであるデザイナーの深澤直人さんと今回のプロジェクトについて議論していたとき、カプセルトイの「ガチャガチャ」のイメージが浮かびました。自動販売機に硬貨を入れてレバーを回すと玩具が入った丸いカプセルが出てきますが、開けてみないと中は分かりません。

 同様に自動運転といっても中を一般の車のような座席にするのではなく、ぱかっと開けたら店舗だったり図書館だったりしてもいい。人をAからBまで連れていく移動手段だけにこだわる必要はないのでは、と話しました。そこでコードネームをGACHAとし、Sensible 4も気に入ってくれたので正式名称にしたのです。

 ガチャガチャのカプセルのような球形をモチーフに、GACHAもできるだけ凹凸の少ない外観にしています。全天候型として、雪を積もりにくくするデザインでもあります。運転席がないので、一般の車のように前と後ろを意識させる必要もありません。前を照らすヘッドライトはやめて、車体の周囲にLEDをベルト状に配置することにしました。ここに文字を表示すれば外部と360度でコミュニケーションができます。座席もGACHAの特徴で、周囲の窓に沿って配置しました。国によって左側通行とか、右側通行などと交通ルールが異なっても使用できます。

GACHAの車体の周囲にはLEDをベルト状に配置して文字を表示し、外部とコミュニケーションできるようにした

GACHAでは内部を囲むように座席があり、乗客たちからは自然に会話が生まれそうだ

細谷 なるほど、車メーカーが開発すると一般のバスをベースに発想しがちですね。車とは無縁だった無印良品だからこそ、新しいデザインが生まれたのでしょう。

斎藤 19年にフィンランドで行った公道での実証実験のとき、大勢のお客さまに乗っていただき安心しました。自動運転が敬遠され、ほとんどお客さまがいなかったらどうしようかと思いました。ですが実際は毎日乗車してくださる方もいましたし、頂戴したご意見からもGACHAが生活の一部になり得ることを実感しました。お客さまから見た場合に、人が運転しても自動運転でも、目的地に安全にたどり着ければいい。自動運転だから生まれる価値、GACHAでしか提供できない価値を今後、どう生み出すかを日々考えています。

矢野 乗っていただくと分かりますが、お客さまが座っている様子が、まるでサウナにいる感じなんです。丸っこい内部で人と人が寄り添っていますからね。フィンランドはサウナが盛んな国というのもあるのか、自然とお客さま同士の会話が生まれ、笑顔になっている。大した仕掛けはありませんが、何か自然とニコニコするようなデザインに仕上がったと思っています。生活雑貨と車で分野は違いますが、やはり無印良品らしいデザインになっているようです。

細谷 お客さまがどういう暮らし方をするか、という点に常に軸足を置いて考え方がぶれないから、自動運転でもGACHAのようなデザインが生まれたのですね。今後の計画をお聞かせください。日本でも走らせるのでしょうか。

斎藤 20年度中には日本で走らせたいと思っており、地方自治体やパートナー企業と話をしています。

細谷 日本でどんな変化が起こるのかが楽しみですね。本日はありがとうございました。

左から細谷氏と矢野氏、斎藤氏。良品計画の本社エントランスには、実物大のGACHAを描いたイラストがあるため、大きさをイメージできる(写真/丸毛 透)

(日経クロストレンド2020年06月05日掲載の内容を転載しています。)


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