バニスターは、中央軒煎餅の事業ブランド「中央軒煎餅」のリブランディング戦略の構築をトータルに行いました。中央軒煎餅は、1923年に東京で創業された米菓子メーカーです。厳選された高品質な原材料と、こだわりある食感を作るための職人の手間隙かけたおかきを作りによって、その時代に適した様々な商品を開発し、販売してきました。
「中央軒煎餅」ブランドは、中央軒煎餅そのものともいえる中核の事業ブランドです。
これからの菓子業界の市場環境、贈答品ニーズの変化を見据えて、ブランド独自の提供価値を確立し、ブランド認知を向上させ、愛着の持たれるブランドとなることをゴールとして、リブランディングプロジェクトがスタートしました。
おかきは、長年にわたって世代の垣根を超えて愛されてきましたが、スーパーの袋菓子の台頭などにおりコモディティ化しており、一方続々と個性的な商品が登場する贈答菓子市場においても、その存在が希薄化していました。特に若年層の間では「おかき=年上の方への無難な贈り物」という印象が固着化していることが、定性調査でも判明しました。
おかきは、その地味な見た目とは裏腹に、実に手間と時間のかかるお菓子ですが、「中央軒煎餅」が、手間を惜しまず細心の注意を払って大切に作っているという事実も伝わっていませんでした。
また、「中央軒煎餅」は売り場での見え方にも大きな問題を抱えていました。直営店舗においては、ブランドポートフォリオが整理されないまま多種多様な商品が並び、個別最適されたパッケージが煩雑な印象を生んでいました。量販店などのセルフの売り場では、存在感に乏しく、あまり魅力的とはいえない包装紙に包まれた商品が積まれた状態になっており、どちらのタイプの売り場でも、ブランドとしての魅力ある一貫した世界観を創出できていないという課題がありました。
これらの複合的な理由により、「中央軒煎餅といえばこんなブランド」というお客様から見た確固たるイメージが確立されていませんでした。
「人の温もりを感じるおかき」
バニスターはプロジェクトメンバーとともに、お客様にとってのおかきの存在、10年後のあるべき姿や市場環境の変化、新たに獲得すべきお客様像などをテーマにしたワークショップを実施し、これからのお客様とおかきの関係性、贈答菓子の在り方について協議しました。また、おかきを定期的に贈答する消費者へのインタビューも実施しました。
調査結果から、「人との付き合いや贈答機会が多く、気遣いと思いやりがある親切な女性」を主たるターゲット顧客として設定。彼女たちが人に贈りたくなる、贈る相手との結びつきを強めるおかきを目指し、「おかき記憶を積み重ねる、人の温もりを感じる結びつき」を提供すると決めました。
この提供価値を社内で浸透させるために、提供価値を基にた新しい挑戦を実行して最高に美味しいおかきを作り続ける、という意思を情緒的に表現したブランドビジョンを策定しました。
そして、キーコンセプトである「温もり」を見える形にしていくため、デザインテーマを定めてタッチポイントのデザイン開発を行いました。売り場を煩雑に見せていた商品の体系も見直し、ポートフォリオを作成して商品のターゲットと役割を「温もり」のタイプによって明確化し、主要な商品とそのパッケージデザインをリニューアルしました。
包装紙は、女流日本画家の手描きによる温もりや豊かさのあふれるパターンを使ってを開発し、商品ブランドごとの個性と「中央軒煎餅」事業ブランドの一貫した世界観を両立して、お客様のおかき体験を記憶に留めるデザイン戦略を実行しました。
また、策定したターゲット顧客層を獲得するために、これまで店舗が無かった東京都心部への出店を決め、2021年6月に渋谷マークシティに新店舗がオープンしました。この店舗では、積み重なった包装商品が印象的なディスプレーや、温もりのある色調と風合いのある質感の店舗デザインによって、ターゲット顧客に新たな「中央軒煎餅」ブランドの世界観を届けることを目指しました。
包装紙用の色彩とパターンは緩やかに統一されながら、各商品をイメージした異なる彩りと形を持っています。各商品を包装して売り場に積み重ねることで、それぞれの商品の魅力と共に一貫した「中央軒煎餅」ブランドの世界観を視覚的に伝えます。
バラエティに富んだ様々な素材と素材を組み合わせ、手をかけ時間をかけ作るという意味を込めた「Kumitte(クミッテ)」というネーミングで、お客様に気軽に手にとって楽しんでもらえる商品を開発しました。パッケージは、多様な素材の組み合わせを表す様々な植物モチーフをあしらったアイボリーホワイトの丸缶とし、蓋を開けるとカラフルな個包装に包まれたバラエティに富んだ美味しさが目に飛び込んでくる、皆でつまめる楽しいデザインとなりました。
中央軒煎餅のこだわりが集結した中央軒おかきのリニューアルでは、品のある渋めのアイボリーと箱を開けた際に華やぎを添えるオレンジを使い、あらたまった贈答などにも相応しい商品パッケージを開発しました。帯に配した野趣に富んだ生き生きとした草花は、厳選した素材の風味や食感を活かした中央軒おかきならではの本格的な味わいを表しています。
Find new paradigm in you. このスローガンを聞いたことをきっかけにしてバニスター様にはブランディングのパートナーとして長くお手伝いいただいております。
次の100年に向かってブランド全体をリブランドする、という今回の一大プロジェクトにおいても弊社のこだわりや大切にしていること、中央軒煎餅らしさを起点に、これからどんな価値をお客様に提供したいのかという意志を明確にし、表現することを様々な形でサポートしていただきました。
プロジェクトを通して再定義された「人の温もり」というコンセプトを、パッケージや包装紙、さらには店舗デザインに至るまで、全てを一貫して視覚的に表現していただけることにより、統一されたブランドの世界観を創り上げることができました。ありがとうございました。
株式会社中央軒煎餅 代表取締役社長 山田 宗 様